秀れた打楽器奏者になるために

第3回 リズムはどれほど重要か?

2017年09月05日 更新

リズムさえ合っていれば...

音楽を構成する要素とは?と尋ねられたら、あなたは何をあげますか? メロディー、ハーモニー、リズムでしょうか。 では、その中であえて優先順位をつけるとすればどうでしょうか?

この問いに私は、まず第一にリズムと答えます。

なぜリズムが第一なのでしょうか。これには読者の方々にも是非考えて頂きたい思っています。

例えば、音の強弱が全然整っていなくても、音程が悪くても、 また、ハーモナイズせずメロディーが歌っていなくても、とにかくリズムさえしっかり整っていれば、 その音楽は最低限、聴くに耐え得る、と思うのです。 しかし、それとは逆にリズム(テンポ感も含まれる)が曖昧であれば、まず合奏することすら難しいのです。

ですから、音楽する上で技術上の必要最低条件は、やはり良いリズム感にあると私は考えます。

それで今回は、このリズムについて書くことにしましたが、実は基本的なことでありながらこれほど厄介なものは他にはないのです。

例えば、メロディーやハーモニーはある程度知識によって理解することが出来ます。ところが、リズムは頭の中で理解できたとしても演奏には何の役にも立ちません。表現するのはあなたの身体、そうです、リズムは全身で感じて創り上げるもので、理屈ではないのです。それだからこそリズム感は(生まれつきそれを育む環境で育ち、苦労しない人もいますが)時間をかけて体得するものなのです。ある時には努力と忍耐が必要とされる場合も少なくありません。

よく「自分はリズム感が悪い」と思い込んでいる人がいますが、その人は本当に努力することから逃げているか、またはそれを改善する術を知らなかったり、リズムの構造について気付いていないのではないかと思います。

呼吸していますか?

あなたは今、呼吸していますか。それはあなた自身が生まれながらに持っている無意識に行われる周期的な運動で、これは一つのリズムです。

あなたが忙しく動くとき、あるいは感情的に高まった状態にある場合、心臓のパルス(鼓動)は速まりませんか?そんなことは当然かもしれません。実は音楽に おけるリズムもそれと同じなのです。ですからあなたも充分に音楽に必要なパルスを持っていると言えます。是非それを発掘して磨いて下さい。

では、リズムはどのように表 現されるのでしょうか。今まで呼吸という例と出してきましたが、そのことを私自身も大切に考えています。これは呼吸をしなければ演奏できない管楽器を演奏 する方にとってはさほど大きな問題とはならないかもしれませんが、息を吸わなくても音を出せる打楽器の人にとって、この「呼吸しなくても音が出せる」ということが実は重大な障害となるのです。

生きている者は皆呼吸し、必要に応じてエネルギーを得ますが、音楽のリズムも同じです。

ある場合は深く、あるいは敏速に、表現に応じた呼吸をすることによってリズムは生きたものになります。

ですから息を殺して演奏したりせずに、リズムの流れやフレーズに呼応して呼吸することを忘れないようにしましょう。

また、その息をどのように使うかによってリズム表現に大きく影響を来します。 具体的にいえば、身近な例がマリンバのゆっくりした曲を演奏するときのトレモロ奏法です。「息をしなくても音が出る」マリンバでは、 曲の最初から終わりまでずっとトレモロを切らずに演奏することだってできます。

これは極端な例ですが、この息が詰まりそうな演奏を思い浮かべてみて下さい!


リズムパターンはそんなに多くない

では、どうすれば正確なリズムを自分のものにできるのでしょうか。そのいくつかの方法をあげてみましょう。

第一に、ほとんどの一般的なリズムは定まったテンポ内での周期的または規則的な動きをします。

譜例1
譜例1

五線紙に記されているリズム・パターンはせいぜいここに上げたパターンかそれらの組み合わせです。

このように基本的なリズムは無限にあるわけではありませんので、これらパターン化され得るリズムの特徴や性格を良く表現できるように練習することが正確なリズム表現の土台となります。第二には。速度の目安になる拍でテンポをとるだけでなく、全体に流れている音符の主要な音符(例えば)を感じて16ピートで拍を感じて演奏すると生きたリズム感をつくることができます。

譜例2
譜例2

第三は、譜例3のように音符というものは、 休符など「音のない部分」の扱い方次第で大きく変わるということ。 ですから休符は「休み」と考えるのではなく、 音の出ない部分をテンポの中で充分にエンジョイするようにします。

譜例3
譜例3

第四に後打ちについて。

よく、自分では全く遅れているつもりはないのに「遅れる、遅れる」と言われたことはありませんか。後打ちは、過度にそれを意識するとかえってリズムの流れを壊してしまうものです。そこで譜例4のような場合、これを一連の音符としてそのリズム運動の中で消化してしまいます。

譜例4
譜例4

譜例5については、表拍を図のようにスティックを振り上げるようにしてストロークを始めます。そしてその上限の位置で拍の表を把握した後に裏拍で楽器を打ちます。 このようにすると後打ちは表拍のように決まりますので是非研究してみて下さい。

譜例5
譜例5

よく、後打ちになった途端に肩に力が入ってしまう人がいますが、要するに、 後打ちの際のスティックの動きは表打ちのときと全く変わらず、 ただリズム的に見て半回転分ズラしただけだということをお忘れなく。

その他、付点音符と三連符の違い()も要注意です。

三連符などの連符も変にもたれることなく、明快に均等に配分するように心がけましょう。

いずれにしても正確なリズム表現というものはメトロノームやシーケンサーが出すリズムのようにまったく機械的なものではあり得ません。 ですから、むしろ音符の持つウェイト、音の切れ具合、音符の運動性あるいは方向性、 すなわちある音がどこを目指しているのか ーーー 次の小節の頭の音か、それとももっと先の音に解決するのか、など。

譜例6(=この音形はよくモーツァルトなどにありますね)ーーー を見極めること、それから速度(テンポ)コントロールには充分気を配って演奏したいものです。

譜例6
譜例6

リズムは言葉だ

また、リズムは言葉のようなものです。従って、そのイントネーションによって美しさが加えられます。 ただアナウンサー的に発音するのではなく、 雄弁な朗読者のように朗々と音符の持つ言語のシラブルを歌って下さい。

リズムとは本来、音符から発するものではなく、それを読むあなたの感情から出るものです。優れた打楽器奏者は単にリズムのメカニズムを体得することだけにとどまらず、真の意味でのリズムメーカーであってほしいと思います。

そのためには指揮者と一体になってなすべきことを良く判断し、 他の奏者の演奏にも積極的に耳を傾け協調性と主体性を持って演奏に臨むことが、 優れたリズム感覚を備えた打楽器奏者としての本領を発揮することになるのです。